妄想ストーリー:月経が可視化された未来
朝起きると、ウェアラブルデバイスに通知が来ていた。
― あなたの経血タイプはCになりました
通知を開くと色鮮やかなグラフが表示され、「70ml」と書かれている。どうやら今月の経血量がいつもより減っていたみたいだ。
「そういえば、ここ最近は仕事の締め切りに追われていてストレスがかかっていたからな…。一時的なものだったらいいのだけれど」。そう呟きながら、病院に経血データを転送して診療してもらうことにした。
このウェアラブルデバイスと連動している生理用品を着用すると、自動で経血量や成分を分析したうえで、経血タイプを診断してくれる。私の経血量はだいたいいつも90mlくらいだが、時々100mlを超えて「過多月経アラート」が出た時は、貧血にならないように鉄分のサプリを摂ることにしている。
昼間、仕事の打ち合わせで顔を合わせた美咲が声をかけてきた。
「栞、経血タイプCになっていたね。私もCなの。」
今朝の通知を美咲も見たようだ。経血タイプは周囲に共有する設定ができる。もちろん開示しないこともできるが、私の周囲はオープンにしている人が多い。月経期間であることもわかると、仕事やプライベートな予定も互いに配慮することができる。
「Cはどういうタイプなの?」
美咲に尋ねてみる。
「経血量は少ないけど、時々生理痛があるかな。お腹を温めると楽になるから、この腹巻きはオススメだよ。」
そう言って美咲が見せてくれた腹巻きデバイスは、生理痛と連動して自動で適温に調整してくれるらしい。
私が初経を迎えた時、経血タイプはAだった。Aの特徴はとにかく経血量が多いこと。月経管理アプリの記録を見返してみると、当時は140mlほどあったようだ。特に夜は漏れないかいつも不安で、修学旅行と生理が重なった時なんて最悪の気分だった。でも、この月経管理アプリはただ記録を残せるだけではない。同じ経血タイプの人たちと、メタバース空間でつながることができる。当時、経血タイプAのメタバースコミュニティに参加して、それぞれの月経期間の乗りこなし方を教えてもらったことを覚えている。メタバース空間では、自動翻訳機能のおかげでいろんな国の人とも話すことができる。遠く離れた国の人も同じように月経に関する悩みを持っているのだと知ると、心が近づいた気がする。それに、海外ではひんやりする素材や、使い捨てのパンツ型のナプキンが流行っている…なんてことも教えてもらって、取り寄せて試してみた。
この月経管理アプリには世界中の月経データが溜まっていて、日々研究が進んでいるらしい。同じ経血タイプの人が月経中どういう症状を抱えやすいか、どういう病気になるリスクがあるのかなどを教えてくれる。私の月経データも、きっと誰かの役に立っているのだろう。
働き始めた20代の頃、今朝みたいに月経管理アプリが経血タイプAからBになったと通知が来たことがあった。初めての経血タイプの変化だったからすごく不安になって、その時もメタバースコミュニティにログインして、経験者を探して相談してみた。
「私も働きざかりのとき、急にBになったことあったなあ」
「加齢によって、経血タイプは変わっていくから心配ないよ」
「3ヶ月続くようならば、病院にいくと安心かもね」
同じ経血タイプでつながることができて、悩みに共感してもらえてすごくほっとした。でも、この月経管理アプリやメタバースコミュニティで出来るのは、あくまで相談まで。本当に心配なときは、医療機関にかかるのも大事。
夜、パートナーから「何か買って帰るものある?」と連絡がきていたので、「経血タイプCの生理用品を買ってきて」と返信をしておいた。パートナーも私の経血タイプを把握していて、今日みたいに生理用品を
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