中小企業が自動化ツールの利用に二の足を踏む理由について、私の持論をお伝えします。これは特に自動化ツール、HRテック事業者の皆さんにお伝えしたいページかもしれません。ご支援を行っていて感じる思いを書き記します。
深い溝があると聞いて「え?」と思うHRサービス提供者は多いと思います。
でもこれは、利用者の感覚を見誤っているからです。リクルートの営業企画時代に一番注力したのは、「サービス開発側と利用するクライアントの乖離」を埋める事でした。
求人サービスを例にとって考えてみましょう。
20年前、アルバイト・地方採用系の求人媒体も新卒系求人や転職系求人に倣って「ペーパーマガジン」から「インターネットサービス」に進化したとき、一番問題になったのが応募受付システムの対応でした。
当時、バブル崩壊が底を打ち、企業の採用活動も活発化。各地で「応募効果が少ない、何とかしてほしい」との声が出てきていました。そこで目を付けたのが、応募の取り零しの解消です。
求職者側が求人情報検索を行うのは営業時間外の夜間が多く、翌日の営業時間内に電話で応募をしないといけない。応募受付担当が不在または忙しい時には「(電話の)かけなおし」を余儀なくされ、再電話率が下がり応募を失うこともしばしば。これではお互いの利益にならないので中途採用メディアのようなWeb応募ができる仕組みを搭載することにしました。開発側は利便性が上がり、企業の採用数も増えるだろうと意気揚々でした。
でもサービス開始以降、わたしたちは企業へ「応募を見てください」という電話を山のようにかけることになります。企業側の応募未読・未取り出しは過半数に近いレベルの多さでした。
Web応募は求職者にとっては非常に利便性が高かったですが、企業側はコミュニケーションの主体が電話であり、常にメールを見ているわけでもなく、来るか来ないかわからない応募受付のためにパソコンを立ち上げメール画面を表示しておく行為が苦痛でした。
メールが無理ならFAXと設定したFAX応募受付も、個人情報を垂れ流さないために「暗証番号」を入れない情報が出てこない仕掛けにしており、企業側が暗証番号を忘れたり入力を面倒くさがったりしてそのまま放置される。
開発側の盲点だったのはサービスを利用する両社の温度差に気づけなかったことです。
「求職者」という利用者にはすぐ応募ができて便利で受け入れられましたが、応募受付企業という利用者にとっては求人応募がその場で完結する電話の利便性が高く、メールやFAXに変える意味が分からなかったのです。「応募が増えますよ」とお伝えしても、なかなか進みませんでした。
求人サービスは「求職者という利用者」が応募してくれてビジネスが成り立つので、彼らの「不満」を解消することがサービスの品質向上となります。求職者利便性を追求してサービスは進化します。
ただ、「応募受付企業という利用者」の行動やネットリテラシーを正しく理解できているかというと、そうではありません。これによって「溝」が大きく深まり、いまや「溝」を超え「分断」に近い状態になっているところもあります。
自動化サービス提供者が導入企業の動向を正しく認識できていない
もちろんサービス提供側も人によって得意・不得意に差があることは意識していて、そこを調節してサービスを提供しています。ネットサービスに不慣れな人でも進め方がわかるようにサイトの入力画面をわかりやすくする。サイトの上から順番に進めたら完成するようにフォーマット化されている、作業するときのアクションボタンの位置をわかりやすい色使いで大きくする、管理画面の使い勝手をよくする。感覚的に使えるようにUI・UX(利用者の環境や経験)を研究し工夫をしています。
さらに親切なサービスは『チュートリアルをつくる』『botで質問できるようにする』『立ち上げ時にカスタマーサクセスがオンラインで伴走する』などの打ち手を入れています。
でも、残念ながらサポートが必要なのはそのレベルではなかったりするのです。
これは私トレーニングしている企業で実際にあった例です。
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